H. ラッヘンマン 「マッチ売りの少女」の魅力を松平氏に聞く。

インタビュー&編集:iida

2000/3/3追加しました。一番下の枠組です。

2000/3/7 iidaのレポートはこちらです。

シェーンベルクの1903年から1908年までの歌曲<http://highland.hakuba.ne.jp/~iida/matzdaira/index.html>執筆の松平敬氏がH. ラッヘンマン 「マッチ売りの少女」に出演。

2000年3月4日(土)6:10p.m. サントリーホール

演奏会形式・日本初演

指揮:秋山和慶
演奏:東京交響楽団

東京交響楽団のホームページ <http://www.tokyosymphony.com/>


iida: ラッヘンマンの「マッチ売りの少女」って1997年ハンブルクで初演。そしてもちろん日本初演なんですがどんな曲ですか?

松平: まだ、16人の声楽アンサンブルの稽古を2回やっただけなので曲の全貌はさっぱり分かりませんが、かなり変態的な曲であることだけは確かです。

 声楽と言ってもほとんど無声音で音素を発音するだけですし、(16人がバラバラのリズムで発音した音素をまとめて聴くとドイツ語になってるところもあります)発泡スチロール、木琴のマレット、むち、パンフルートなど様々な小物系楽器の演奏も要求されます。あと、ほっぺを叩いたり、両手をこすったり、舌でクリック音を出したりと、視覚的にもかなり楽しめる(?)と思います。多分、オーケストラもそんな感じなんだと思います。

 声楽アンサンブルの楽譜(パート譜)はかなり大きくて、普通のかばんに入らないくらいなのですが、オーケストラのスコアはもっと大きくてページを開いて、さらに縦方向に折り込んでいた紙を広げるような感じになっていて譜面台を縦方向に2つ並べて見ていたのでかなり笑えました。

iida: 現代曲の演奏は難しいと聞きますがこの曲の演奏も今の話では難しそうですね!

松平:かなり大変です。
変拍子&特殊唱法の嵐で、本番までには地獄のような稽古が待ち受けているでしょう。
いまだに演奏法の分からない謎の記号があるので心配です。作曲者本人に聞かないと意味不明な記号もいくつかあります(笑)

iida: 例えばどんなところでしょうか?

松平:弦楽器のボウイングの記号が歌のパートに書かれているのですが、何なんでしょうか?
ダウンで息を吐いて、アップで息を吸うということなのでしょうか?

iida: う、う〜ん。がんばって下さい(汗)。ラッヘンマンの曲をCDで2曲聴いたことはあります。 temAというのとSchwankungen am Rand (Col legno)。東京まで聴きに行こうかとも思ってるのですが今の話をきくとラッヘンマンの音楽がきけるかどうか自信を失ってしまいました。

松平:言葉にするとどうしてもややこしくなるのですが聴く分にはむしろ分かりやすいと思いますよ。
ラッヘンマンのCDは家に7枚ありますが、どれも聴いてるだけで十分楽しいです。ピアノの曲なのにガリガリと鍵盤を爪で擦ってるような音しかしない曲もあったりしますが(笑)

iida: そ、それって楽しいんでしょうか?(汗)

松平:「マッチ売りの少女」にもっとも楽器編成的に近い(といってもかなり違いますが)曲として<<...zwei Gefu:hle...>>, Musik mit Leonardo という語り手と器楽アンサンブルのための曲があります。(1992年作曲、u:はuのウムラウト)

 語り手のパートはラッヘンマン自身がやっていますが、その雰囲気が「マッチ売りの少女」の歌唱パートとの共通性を感じさせ、「マッチ売りの少女」の作風をそこから推測できるのではと思っているので少し紹介します。

 「語り」といっても「ピエロ」や「ワルシャワの生き残り」などの劇的な方向性とは反対に、イントネーション自体は非常に淡々としています。

 ただ、ドイツ語の文章が子音、母音単位で分解されて「点描的に」話されるので(リズムは音素単位で厳密に記譜されていると思います)非常に非人間的な印象を醸し出しますし、それは「人間の声」というよりは意味を剥ぎ取られた「単なる音」という感じです。

 楽器の方も特殊奏法によって様々なノイズ的な音を発するので、それが語り手の発する「声」という音響と組み合わさることにより人声と楽器音の区別は耳ではほとんど区別できないところもあり(特に子音)、楽器音が人声に、あるいはその逆の方向に変化して聞こえるように構成されているようです。(このテクニック自体は1968年作曲のフルート、声、チェロのためのtemAという曲にすでに表れています)

ミクロ単位では抽象的に見える音が連なって、マクロ的に見るとドイツ語の文章になっているということですが、切り貼りして作った脅迫状のようなイメージと比べるのはなかなか適切なのではないでしょうか。

この辺から、私自身も全く全体像の分かっていない「マッチ売りの少女」の作風を想像して演奏会に出かけてみるのは如何でしょうか?

また、開演前に細川俊夫とラッヘンマンのプレトークがあります。

詳しい情報はこちら <http://www.tokyosymphony.com/> (東京交響楽団のホームページ)でどうぞ。

2000/3/3 松平氏より本番直前のコメントが届いたので掲載しましょう。[iida]

松平:この曲はものすごく凄い曲です。

少なくとも現時点でのラッヘンマンの最高傑作と言っても良いと思います。

特殊奏法、特殊唱法、舞台の複数の場所に配された器楽や声楽のアンサンブル、
様々なサンプリングなど、見なれない音響が複雑に組み合わさることにより
結果として非常にはかなく美しい音楽となっています。

冬の凍てつくような寒さも本当にうまく音響化されています。

個人的には様ある種の特殊奏法の組み合わせで生じるざわざわという
ほとんど聴こえないけれども確実に存在感をアピールしている
音響(しかもそれが立体的に広がるのです)に、感動しました。

確かに、なんじゃこりゃという特殊奏法のオンパレードなのですが
「一般的な意味で」とてもはかなく美しい音楽なのです。

特に後半のクライマックスは圧巻です。
こんなに未知の音響であふれていて、かつ感動的な音楽は
そんなに沢山あるものではありません。

いよいよ明日は最後の稽古です。


iida も聴きに行きます。この演奏会を聴きに行った皆さんは是非感想をおよせいただけると嬉しいです。メール:iida


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*松平氏はこれまでにW. リーム「狂ってゆくレンツ」、F.グラス「ピースシンフォニー」に出演の他、独自企画によるリサイタル もおこなっている。また大の現代音楽好きでシュトックハウゼンマニア でもある。iidaのサイトには「シェーンベルクの1903年から1908年までの歌曲」 を寄稿してもらった。松平氏のプロフィール

●独自企画によるリサイタル
<http://highland.hakuba.ne.jp/~iida/matzdaira/play/index.html>

●マニア・シュトックハウゼン 松平 敬著
<http://highland.hakuba.ne.jp/~iida/matzdaira/stockhausen/index.html>

●「シェーンベルクの1903年から1908年までの歌曲」 松平 敬著
<http://highland.hakuba.ne.jp/~iida/matzdaira/index.html>

●松平氏のプロフィール
<http://highland.hakuba.ne.jp/~iida/matzdaira/play/index2.html>


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