第2章

全音音階

 全音音階は特にシェーンベルクの発明ではなく、むしろ同時代人ではドビュッシーの方が積極的に使用していた。また、それ以前にもムソルグスキー Mussorgskyなどの何人かの作曲家の作品にもこの音階が使われている。シェーンベルクの作品の中では先程述べたように《ペレアスとメリザンド》にこの音階から派生する和音を使用しているが、シェーンベルクはこの曲を作曲した当時これらの曲を知らなかったと述べている(注23)。つまりシェーンベルクは誰かからの影響ではなく自分の創意でこの音階を発見したということである。《ペレアスとメリザンド》の中で全音音階による和声が使われている部分を示す(譜例4)(注24)。

 この部分では2つの異なった増3和音が組み合わされることによって全音音階の構成音を全て含む和音が作られている。実は、属7和音や属9和音の第5音を半音上行させた和音(つまり増3和音に、根音から短7度や長9度上の音を付け加えた和音)によって全音音階を想像させる響きを簡単に作り出すことができ、後期ロマン派の音楽ではこうした和声は珍しいものではなかったので、シェーンベルクは増3和音や属和音による表現を拡大する過程で全音音階を発見したのであろう。ドビュッシーはこの音階をいかにも印象派風の色彩的な響きを生み出すために使ったが、この音階自体が余りにも独特な響きを持ち、その後の様々な作曲家がこの音階を安易な手法で乱用しすぎて、メシアン Messiaen は「私は注意深くこれを用いるのを避ける。」(注25)と述べている程である。シェーンベルクは幸いにも、この全音音階の甘い罠にははまらなかった。彼はこの音階を純粋に和声や旋律線を豊かにする目的で使用しているので、彼の作品の中では、長い時間にわたって特定の全音音階だけがあからさまに使用されているパッセージはほとんど存在しない。ここで、彼の歌曲〈道端にて、Op.6-6〉からの実例を挙げよう(譜例5)。

 この部分の最上声部は g-f-es-des-ces という全音音階のラインを描いているが、内声部にdやbといった、上に挙げた全音音階に含まれない音が混ざっているので、安易に乱用すると浅薄な雰囲気に陥りやすい全音音階の響きにスパイスを効かせている。これと同様な例が〈決死隊、Op.12-2〉にも見られるが、この曲については後で詳しく分析する。


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