コラム1:人工光合成分子と酵素を組み合わせて人工細胞で光合成をさせる
Stenberg-Yfrach G, Liddell PA, Hung S-C, Moore AL, Gust D, Moore TA. Conversion of light energy to proton potential in liposomes by artificial photosynthetic reactioncentres. Nature (London) 1997;385:239-241.
Stenberg-Yfrach G, Rigaud J-L, Durantini EN, Moore AL, Gust D, Moore TA. Light-driven production of ATP catalysed by F0F1-ATP synthase in an artificial photosynthetic membrane. Nature (London) 1998;392:479-482.
の紹介
人工光合成は化学者の夢である。光合成システムのここ10年の解明により光合成タンパク質中でおきていることを人工分子で達成しようと様々な化合物が作られてきた。
ここではその代表的なグループの一つによる報告が非常に興味深いので連載に割り込んで紹介する。なお、後日、人工光合成については連載の中で取り上げる予定ではある。
光反応中心はタンパク質中のクロロフィル類縁体が光によって電子が励起され電子移動を起こすことにより電荷分離を達成している系である。この系では電荷分離した電子がエネルギーにつかわれるまで充分電荷分離状態をたもっていなければならない。そうでないと電子は元に戻ってしまって電流としてはつかわれないのだ。この系について詳しくは今後かく予定であるが、先日発表された論文で人工光反応中心とATP合成酵素をリポソーム膜に同時に組み込んで、この光反応中心と同様な働きを起こせることが発表されていた。
彼らの主張を簡単に紹介しておこう。光反応中心を模した分子は以下のものである。
この化合物はカロテンとポルフィリンとキノンからなる。C-P-Qとあらわす。またQsというキノンも同時に用いる。
カロテンは左のくねくねとのびた部分、ポルフィリンは中心の環状の化合物、そして、キノンは右はじの化合物です。
この化合物は光があたると電荷分離がおこる。下に示すようにはじめにポルフィリンからキノンに電子が移動した後カロテンからポルフィリンに電子移動が起き、カロテンがカチオンラジカルになりキノンがアニオンラジカルになる。(カチオンというのはプラスのイオンという意味でアニオンというのはマイナスのイオンという意味)
C-P-Q → C-P(・+)-Q(・-) → C(・+)-P-Q(・-) この電荷分離系は彼らが分光法を用いてこれまで研究してきたことである。これをリポソーム膜といわれる人工細胞中でQsと組み合わせるとどうなるか。この膜を介してプロトンの輸送が起こるという[Nature 1997]。
リポソームは小包体で、以前解説した光合成膜のようなものだが、タンパク質を取り除いた脂質だけで成り立っている。軟式テニスボールのようなもので、中に水がはいっている。テニスボールのゴム部分が脂質という分子から成り立っている。このゴムの部分の表面は親水性で中心部分は脂溶性となっている。普通の物質は透過できず、透過させるには酵素やドラッグなどが必要である。また、透過できないからこそ、内側に有用物質をためこむということができる。
その模式図を左に示す。このC-P-Q分子は水にはとけず、リポソームの脂溶性の部分に存在している。
はじめに光があたり電荷分離がおこる。この後電子はキノンに電子移動をおこし、電子をもらったキノンは膜の外からプロトンをもらう。これでセミキノンラジカルができる。C-P-Q分子はカロテンのみがプラスチャージをおびていることになる。
セミキノンラジカルは膜の内水相側に拡散していく。カロテン部位はカチオンになっており電子を欲しがっている状態なのでキノンからカロテン部分に電子を受け渡すと同時に水素イオンも内水相に放出する。これでC-P-Q分子の電荷分離が水素イオンの膜を介する移動に転換できた。
しかもこの水素イオンの輸送は外側から内側にだけ流すことができている(ベクトリアルな輸送という)。これはこのC-P-Q分子のキノン部位にカルボン酸を結合させ、リポソームにあとから入れるという方法をとることにより可能にしているようだ。
水素イオンの輸送でポイントになるのはC-P-Q分子内での逆電子移動をおさえてQs分子に電子をわたすことである。このことによってこのQs分子に逆電子移動反応と水素イオンのキャリアーとしての2つの役割をさせている。
水素イオンの流入の確認:水素イオン感受性の蛍光物質ピラニントリスルホネート(pyraninetrisulphonate, PS)をリポソーム膜の内水相側にいれておき、水素イオンの流入によってPSの蛍光が増大。
また、ここでこの水素イオンを膜を介して輸送し水素イオン濃度勾配をなくさせる呼吸系の阻害剤であるFCCP分子をいれるとPSの蛍光の消滅がみられ、確かに水素イオンの濃度勾配で蛍光物質の蛍光の増大が起きていることを確かめた。(蛍光物質PSとリポソーム膜の相互作用やC-P-Q分子と蛍光物質との相互作用によって蛍光の値が変化したと考えられるからである)
さらに以前説明したATP合成酵素をリポソーム膜中に導入しておけばこの水素イオンがリポソーム膜の内水相側にたまった水素イオンをくみ出すので外水層のADPとリン酸とからATPの合成が可能となる(左)。(→ATP合成酵素について)
ここでリポソーム膜にATP合成酵素をいれる方法は最近得られた知見で、リポソーム一個に対してATP合成酵素を一個だけ、しかもF1部分を外側にむけて入れることができるという。ここでリポソーム膜中でのATP合成酵素の向きは重要でもし内側を向いていたらATPを合成してくれない。脂質としてeggPC (72%) eggPA(8%) コレステロール (20%)を用いている。(PC:フォスファチジルコリン、phosphatidylcholine、PS:フォスファチジルアシッドphosphatidyl acid)。PSを使っているのはリポソームに電荷をもたせリポソームどうしがくっつかないようにするためだと思う
リポソームの作り方:リポソームATPase複合体をバイオビーズを用いて界面活性剤を抜く。Qsはリポソームの作成前に加えておく(界面活性剤がたくさんある時か?)。ここにTHFに溶かしたC-P-Qを加える。Sephadex G-100でゲルろ過。(詳しい条件は原論文を参照のこと)
ATPが合成された証拠:oxyluciferin(ルシフェレースを用いる方法か)ATPの増大をモニターしている。このATPの増大は10分単位の増大である。また、このATPの生産は光の強度に依存している。またFCCPで阻害されていることもあきらかになった。
以上のことから人工光反応中心とATP合成酵素をリポソーム上で組み合わせることで光駆動によるATPの合成ができることができた。
この成果は、これまで不可能だった光照射によってプロトンがリポソーム膜の外側から内側にベクトリアルに流すことができる分子の開発に成功したこと、ATPaseの組み込み方が確立されたことをくみあわせたところにある。
以前述べたように光合成はクリーンなエネルギーの生産法である。それゆえ、人工光合成は化学者の夢である。そして21世紀へ向けた人類の夢でもある。夢にまた一歩近付いた。
人工光合成の分子デザインの基礎、この他のプロジェクトによる最近のストラテジーは後日また書く予定です。興味ある方はお待ち下さい。
来週はここで出てきたポルフィリンなど色素の話しとそれを並べているタンパク質の話。天然に戻ります。また、興味深い論文がでたら割り込ませます。
御批判、誤りの指摘などお気楽に下さい。iida@toride.com
この研究を行った研究者の一人、Devans Gust先生のページ (1999/03/11追記) 第7回おわり
(1998/04/21)