3.光合成はどのようにおこなわれているのでしょうか?
3−5.タンパク質ってどのようにできてるの?
【タンパク質は建築物である】
前回までにクロロフィル類の色素の配置と光化学反応について述べてきました。この色素の配置は色素だけで決まってくるのではなくタンパク質に埋め込まれ、タンパク質と色素が相互作用して決まってくるのです。タンパク質はアミノ酸からできています。タンパク質化学の1つのキーワードは構造と機能です。これはまさに建築のキーワードでもあります。
ここではタンパク質と色素の相互作用について後に説明するためにアミノ酸とタンパク質の構造形成について簡単に説明しておきます。
上に書いたようにタンパク質はアミノ酸からできています。アミノ酸は23種類あって(数え方でわずかに違う)、これらが順につながったものがタンパク質(あるいはポリペプチド)と呼ばれます。酵素といわれる化学反応を触媒する分子として働くにはアミノ酸が20個(個を残基という)以上は必要です。
アミノ酸の一例としてロイシン、ヒスチジン、リシン、トリプトファン、チロシンを見て下さい。水色でマークしたアミノ酸の基本骨格H2N-CH-COOHが共通してあり、一方、そこから枝別れした部分が異なっていることがわかります。
(i)基本骨格
基本骨格は結合して鎖を形成していき、タンパク質の部分的な構造をきめる性質があります(後述)。
(ii)置換基
この枝別れした部分はそれら主鎖をより集めたり、酵素反応の機能を発現したりととても重要です(後述)。
これらのアミノ酸の結合の仕方は以下にしめすようにペプチド結合といわれています。この結合は比較的かたい上に水素結合(あとで説明します)のような他のアミノ酸と間接的に結合でき骨格の構造を決めてきます。
アミノ酸の結合の順序は遺伝子によって記述されていて、そのとおり生体内で結合が作られていきます。アミノ酸残基が順序をもってひものようにつながっていったものを一次構造といいます。
この一次構造をもつタンパク質はさらに2次構造という3次元の構造を持ってきます。代表的な例としてアルファヘリックスあるいはベータシートと呼ばれる構造があります。ここでは光合成タンパク質によくでてくるアルファヘリックスのモデル図を示します(右図)。これは上のアミノ酸のつながったひもがくるくると巻かれているのです。このアルファヘリックスは3.6アミノ酸残基で1回転するラセンを形成しています。遺伝子のDNAとは異なり一本鎖のラセン構造です。
【(ii)置換基の部分】
置換基の部分の理解にはいくつかありますがここではタンパク質の構造形成に重要な二つの点を取り上げましょう。
(1)親水的か疎水的か。
これは水になじみやすい(親水的)かなじみにくい(疎水的〜油に近い性質)かということで、上にあげたロイシンは疎水的、リシンは親水的あとは中間的です。これはタンパク質の内部と外部の性質を決めてきます。
(2)アミノ酸の骨格部分から飛び出た置換基部分が水素結合を形成するかどうか。
水素結合は共有結合ではなく、ゆるくお互いを束縛しあう結合のひとつです。この水素結合はタンパク質の立体構造に重要な寄与をしているばかりか機能にもとても重要です。上にあげたものではヒスチジン、トリプトファン、チロシンが水素結合で重要な役割をはたすグループです。
そして、これらの2次構造があつまってタンパク質は形作られていくのです(3次構造の形成)。このアルファヘリックスの集合にはアミノ酸残基の置換基が重要な役割を果たしているのです。例えば、アルファヘリックスからつきでた置換基が水素結合や疎水性相互作用やイオン対の形成が行われて(図の赤線)タンパク質の構造が決まってきていると考えられています。
詳しくは別で説明いたしますが光合成タンパク質の光収穫系タンパク質ではこのアルファヘリックスが10本から36本集まり、さらに色素分子を結合することによって立体構造を形成しています。
【光合成タンパク質は膜タンパク質】
これまで説明してきた光合成タンパク質は、膜タンパク質といわれているものです。これの特
徴は膜中に埋め込まれているために水溶性ではないということです。一方、よく知られている酵素は水溶性のものが多いのです。
膜の環境は以前述べましたように膜の中心は疎水性、すなわち水を嫌う性質があります。このため、ここに埋め込まれている光合成タンパク質の外側の中心部も水とはなじみにくく、疎水性相互作用により膜中で安定化していると考えられています。
疎水性相互作用というのは水の中の油の性質のことです。水と油は混じり合いませんね。水の中では油は油だけで集まろうとします。このために、膜に埋め込まれるにはタンパク質の外側の中心部が疎水的である必要があるのです。そしてそれはアミノ酸残基の配列に反映されています。すなわち上で述べたようなロイシンのような疎水性の性質をもつアミノ酸がアルファヘリックスの中心部分にはたくさん含まれているのです。
また、膜の表面は水と接しているために親水性になっています。この領域と接するタンパク質の部位には親水的なアミノ酸がたくさん配列されています。
上の図に示したように光合成タンパク質はアルファヘリックスが平行に集合したものが膜を貫いて埋め込まれているものが多いようです。原始的な光合成細菌の光収穫系タンパク質、光反応中心、そして高等植物の光収穫系タンパク質、PS1, PS2はすべてこの形をしているようです。もちろんこれからもいろいろなタンパク質がみつかってくるかもしれないですが。
このアルファヘリックスの集合体は、これに色素が結合し、色素の会合や配向を制御することによって色素による効率的な光機能の発現に重要な役割を果たしています。色素の結合にはタンパク質のヒスチジン残基のイミダゾールや色素の周辺の置換基へのタンパク質からの水素結合が使われているようです。これらの構造はX線構造解析でその構造がわかってきています。
【これらタンパク質はどうしてこのような構造をとるのでしょうか?】
定性的にアミノ酸残基がアルファヘリックス構造を取りやすいとかベータシートになりやすいとか、いままでに見つかったタンパク質から求めた統計的な分布で2次構造についてはいろいろわかってきてはいます(ChouとFasmanによる二次構造傾向性 解説は「タンパク質工学」 油谷克英&中村春木 著 浅倉書店などで読むことができます)。
しかし、定量的な予測はできるのでしょうか?タンパク質はアミノ酸残基の順序が決められて結合しているだけのようです。アミノ酸の並び順序情報だけでタンパク質の構造までわかるのでしょうか?さらに機能はどうでしょうか?
これに対する挑戦はコンピュータを用いた計算で発展してきました。コンピュータでアミノ酸残基を打ち込んで安定な構造をとるまで熱力学的に安定な構造をとるまで計算させるのです。現在は比較的短い(20残基程度)ものではその構造が見えてきているようです。しかし、上で紹介したようなアルファヘリックス間の相互作用をいれた立体構造の形成の予測は経験的なパラメータをいれないとアプリオリには決定できないようです。従って機能の発現までは現在予測できないようです。コンピュータのスピードが指数関数的に増大していることから比較的近いうちにできるようになるかもしれません。
このコンピュータを用いた立体構造予測は最近発達してきたタンパク質工学とよばれる人工的にタンパク質を合成したりしてそのデザインと構造について研究することを助けています。
また、近年の生化学は遺伝子情報をあやつり、遺伝子の情報を書き換えることができるようになってきました。このため、タンパク質のアミノ酸の特定の1つを別の物に入れ替えることも可能になってきました。多くの場合、直接もとの菌体で培養するより大腸菌で培養するようですが、光合成細菌(capsulata, sphaeroidesなど)については光合成細菌にいじった遺伝子を戻して発現させています。
この部位特異的遺伝子変換の手法ではタンパク質のアミノ酸を1つだけ変えタンパク質に小さな変化をひきおこさせ活性の変化を見ます。こうすることによってタンパク質中のそのアミノ酸残基の働きを類推できるようになってきているのです。
光収穫系タンパク質や光反応中心でも人工のタンパク質や細胞内での遺伝子変換はおこなわれています。そしてタンパク質と色素の水素結合や電子の通り道などについていくつか重要な知見が得られています。それらについては各論で紹介しようと思います。
モリソン・ボイド「有機化学」(東京化学同人)によると、タンパク質という英語はprotein(プロテイン)ですがこれはギリシアで第一位(proteios)を意味する言葉に基づいているそうです。タンパク質は細胞の中では酵素のような触媒としてはたらき生命にきわめて重要な役割を果たしています。
しかしながら多くのタンパク質はアミノ酸配列がわかっているだけで一体なんの役割をはたしているのかわからないことが多いのです。このことはアミノ酸配列から一意にきまるタンパク質の構造を求め、さらに機能についても研究していくことが重要であることがわかります。このことから新規なタンパク質の構造類推のためにもすでにわかっているタンパク質の構造と機能を研究することは非常に重要なことなのです。さらに現在、これらの天然の研究をもとに人工的にアミノ酸を結合していき構造と機能を発現していこうというde novoデザインなどが発展してきました。これはまさにアミノ酸による建築でもあるわけです。
今回は
1 タンパク質はアミノ酸からなっている
2 アミノ酸の骨格部分がタンパク質の主鎖を作り出しアルファヘリックスを形成している
3 アミノ酸の置換基部分はタンパク質の大きな構造や表面の性質を決めていること
4 光合成タンパク質の膜タンパク質はアルファヘリックスからなっていて膜中に安定に
存在するために適したアミノ酸残基がえらばれていることを述べました。
光合成タンパク質では10年ほど前、光合成反応中心のX線結晶構造解析がはじめて提出され、分子レ ベルでの光合成タンパク質の構造がわかってきました。次回は光合成タンパク質の構造について各論で述べていきましょう。はじめに光収穫系タンパク質からはじめたいと思います。
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第12回おわり
1998/06/03