3.光合成はどのようにおこなわれているのでしょうか?

3−3.興奮したクロロフィル分子は何をする?

    光励起したクロロフィルのふるまい

前回までに光合成タンパク質中にはクロロフィル類といわれる色素分子がはいっていて、それらによって光が吸収されていることを説明してきました。ではクロロフィル分子は光をうけとったあとどうなるのでしょう?特に光合成タンパク質中ではどのような挙動をとっているのでしょうか?

 光を受け取ったあとは電子がよりエネルギーの高いところにいます。この状態をexcited state、まさに興奮状態なのですが学問的には励起状態と訳しています。

 エネルギーの高いところにいるということはいつか落ちるということです。この電子のエネルギーの低い順位への落ち方には二つあります。

 (1)エネルギー移動

 (2)電子移動

 これらの現象が光合成タンパク質中では起こっているのです。

 順に説明いたしましょう。(ただしタンパク質中の色素の会合および配向については説明していないので色素単量体での説明にします。)

【エネルギー移動】

 エネルギー移動は分子の外に光エネルギーを放射し、電子はもとのエネルギー準位にもどることです。このときこの光エネルギーを受け取る相手がいるときにエネルギー移動といいます。受けとり手がない場合、マーカーペンとしてつかっている蛍光となります。つまり受け取り手がないので光をだすわけです。

 その概略をモデル的に示しました。色素Aと色素Bが以前紹介したクロロフィル類だと思って下さい。

(i)はじめに色素Aが光を受け取るとします。そしてこの色素Aの電子のエネルギー準位があがり励起状態になります(右)。

 電子が下の準位にいる時に2つで一組になっているのはスピン対で軌道を占有していることを表しています。

(ii)次に色素Aから色素Bにエネルギー移動が起こります。ここで、色素Aの近辺に色素Bがいなければいけませんが弱結合型では120オングストロームくらいまでエネルギーは届くようです。右に示したようにエネルギー移動というのは色素Aの電子がもとの電子準位に落ちる時に放出されたエネルギーにより近くにある色素Bのエネルギー準位を押し上げるということなのです。このため色素Aはドナーと呼ばれます。

(iii)最後は色素Bが励起状態になり、受け取り手(アクセプター)になっています。ここで色素Bがさらにエネルギーをわたす相手があれば、さらにエネルギー移動はおきます。また、相手がなければそこで蛍光を発します。

このエネルギー移動は現在の理論では強結合型と弱結合型があります。これは光エネルギーを出す方と受け取る方の距離に関係していますが実際の現象に対してどちらであるかはわかっていないものの方が多いようです。ここでは弱結合理論(フェルスター型)の説明にしました。この弱結合型はドナーとアクセプターの間に双極子-双極子相互作用がある場合におこると考えられています。このエネルギー移動機構ではエネルギー移動速度は距離の6乗に反比例します。

 エネルギー移動が起きていることを調べるには蛍光スペクトルで色素Aの蛍光が減少し色素Bの蛍光が増大していればよいです。また蛍光の減少に対してStern-Volmer Plotをとればエネルギー移動効率を見積もることができます。

 さらに、励起スペクトルを測定して吸収スペクトルと比較すればどの成分がエネルギー移動したかよくわかります。時間分解で測定できれば理想的です。光合成系ではフェムト秒(10のマイナス15乗!)でみる必要があるそうです。

 このエネルギー移動という現象は光収穫系タンパク質に関係が深く、光収穫系タンパク質では次々とエネルギー移動がおこるように色素が配置されています。すなわち、その光は光反応中心に向かって流れるようにタンパク質中に色素が固定されていて、色素間のエネルギー移動を通じて最終的には光反応中心に流されるわけです。そのため光収穫系と呼ばれているわけです。光反応中心はこのエネルギーをうけとり電荷分離をおこします。これらについては次回にでも取り上げていきます。

【電子移動】

 電子移動は光を受け取った電子がもとの化合物から飛び出してしまうことです。そして電子の通り道をとおっていきます。この電子の通り道こそ電子伝達タンパク質が用意しているもので、ここを通ることによって電子はエネルギーを捨てそのエネルギーで水素をくみ出しているのは前回説明したとおり。

(i)はじめに色素Aが光を受け取り励起状態になるのは上と同じ。

(ii)次に励起した色素の電子が近くの色素Bの電子の空いている軌道にとび移ります。色素間の距離は10~20オングストロームくらい。ここでその電子軌道は通常もとの軌道より低いエネルギー準位になっています。

(iii)電子がとび移ったあとは、電子はマイナスですので色素はプラスのラジカルとマイナスのラジカルになります。ラジカルという意味は、電子は分子のなかにあるときに二つでペアを作ると安定なのですが一個だけだと非常に不安定で反応性が高く、そのためにわざわざラジカルと呼ばれているわけです。

この電子移動の理論はマーカス理論といい、1992年にノーベル賞がでています。マーカス理論によると電子移動の起こる速度を分子の自由エネルギー差と溶媒の再配列パラメーターから活性化自由エネルギーをもとめ、電子移動速度が計算できます。

 この電子伝達理論は誘起光伝導材料、情報変換材料、分離・輸送材料・エネルギー変換材料などの光機能材料に応用がされています。

電子移動が起きていることを確かめるには、蛍光スペクトル、EPRなどが使われます。また時間分解の吸収スペクトルで確認されることが多いです。

電子移動理論について詳しくは文献を御覧下さい。Marcus RA. Electron Transfer Reactions in Chemistry: Theory and Experiment ( Nobel Lecture ). Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1993;32(8): 1111- 1121.

この電荷分離にはじまる電子移動は光反応中心でおきていることでもあります。通常このようなイオンペアの寿命は極めて短く、すぐに電子は逆に戻ってしまうのですが、光反応中心の中には色素が5種類あって電子がその中をすばやく順に移動していき、その逆反応がきわめて起こりにくくなっています。

さて、今回はエネルギー移動と電子移動について定性的に説明いたしました。バクテリオクロロフィルは光を受け取った後、エネルギー移動か電子伝達をおこす。光合成タンパク質中では

 エネルギー移動・・・・・光収穫系タンパク質

 電荷分離と電子移動・・・光反応中心

  →以前説明した光合成膜中でのそれぞれの光合成タンパク質について

では、どのように2種類の反応は制御されているのでしょうか?どちらも同じ分子に光があたっているのです。その後の反応はなぜ異なってくるのでしょうか?

 それはクロロフィル分子などの分子配列とまわりのタンパク質が決めているのです。

 次回は紅色光合成細菌の光収穫系タンパク質と光反応中心の色素の配置のデザインとその中でのエネルギー移動と電子移動を簡単に紹介します。ダイマーとスペシャルペアですね。その次はタンパク質の説明で、その後ようやくLHとRCの各論にはいります。

乞う御期待

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第10回おわり

1998/05/15

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