3−2.色ってなに? 光と色素中の電子の相互作用

色を持つとはどのように説明されているのでしょうか?

 色について考えることはミクロ世界の法則を考えることです。この法則は量子力学で説明されます。ここではそのおおまかな枠組みを現象論で説明していきます。

 はじめに原子の構造と光、電子のエネルギー準位を説明していきましょう。

 左に原子のモデル図とともに原子の電子が光を受け取った時の挙動をかきました。

 原子はプラスの陽子、中性子およびマイナスの電子からなります。このうち陽子と中性子は原子核を形成しています。これはお馴染みの絵ですね。

 ところがこの絵、おかしなことが書かれています。電子がぐるぐる軌道をもち核のまわりをまわるのはいいのですが光があたると電子は外の軌道へと「ジャンプ」しています。

 惑星の運動はどうでしょうか?惑星ですと何らかの都合で運動エネルギーが増えたとしても回転する軌道がすこし膨らむ程度です。そういう挙動が許されていることの1つに小惑星帯のように連続した軌道があることを思い出して下さい。

 電子は光から充分なエネルギーをもらうともはや元の軌道にはいません。外の軌道にジャンプします。

 このような違いは同じ周回運動でも引力の種類やスケールやエネルギーの大きさがちがうことによります。惑星の運動は万有引力で重力場のなかでの運動です。一方原子では電場のなかでの運動です。核のプラスに対してマイナスの電子が運動しているのです。

 惑星の運動の場合回転するのは引力と回転方向のエネルギーがつり合っているからですが、原子ではそうはいきません。巨視的なわれわれが目で見ることができる状況ではプラスの核のまわりをマイナスのものがまわるとエネルギーを放出してこの二つはくっつくことになります。上のような原子モデルをたたてとこうとすると電磁気学では激しく光を放出し、原子がつぶれることを預言し、したがって安定な原子は存在できないことを示しています。

 しかし現実では原子はつぶれていません。このような原子の状態を記述する学問は量子力学とよばれこのような19世紀の電磁気学の困難を乗り越えて20世紀初頭につくられたのです。この量子力学によると電子の周回路のエネルギーはきめられ、それをそれたりすることは許されません。

上のモデルにかいたようにエネルギーを吸い取った電子は別の軌道へとジャンプします。そして光はジャンプする軌道間のエネルギー差だけ吸い込めます(下図)。逆にいえば吸い込める光は、この決められたエネルギー差の光しか吸い込めないことを示しています。

これと同じことが分子でもおこっているのです。バクテリオクロロフィル分子中にも電子軌道があります。前回説明したクロロフィル類は色素が環状で、この環にそって電子の通り道があります。分子中の電子はエネルギーが決められた軌道だけをまわることができ、光を吸い込むとエネルギーの高い電子状態にあがることができます。この高いエネルギーをもつ軌道にあがった電子を赤で表しました(下図)。

上の光と分子の間のやり取りを考えると色が見えるという現象が理解できます。クロロフィル類は緑に見えます。これはどうしてでしょうか?

太陽光をプリズムでわけます。もしくは虹を思い出して下さい。左のようになると思います。(これは光の波動的性質です。)

同時に色と光エネルギーの関係を示しました。

紫色の光は赤い光よりエネルギーが高いのです。これは赤外線より紫外線のほうが強いということを思い出していただければ結構です。

光エネルギーは光の波長に関係しているのです。(これは光の粒子的性質です。)

上で説明したように電子のエネルギーの高さがとびとびになっていて、決まったエネルギー(波長)の光しか吸い込めないなら、光をすいこんだらそこには光のエネルギーがないことになります。それを模式的に書いたのが上の下の歯抜けになった色の列です。

光合成に関係あるクロロフィル分子では光と分子の関係は下のようになります(図はバクテリオクロロフィル)。

 光のうち紫〜青、赤味の橙〜赤はクロロフィル分子がすいこまれます。そして吸い込まれなかった緑が目に入って緑と認識しているのです。(蛍光物質についてはこの限りではございません。これは吸い込んだ光を再びすてているのを見ているのです)

 というわけで分子が緑色であるということは電子が分子軌道を上にかけのぼるのに使われた光のあまりを見ているということになるわけですね。

 実験室で分子の吸収を定量的に測定するには吸光光度計(吸収スペクトル、Uv-visibleともよばれる)で測定することができます。この装置をもちいれば客観的に分子の色の比較ができます。

以上まとめておきますと、光のエネルギーを原子や分子が吸い込む。ここできまったエネルギーの光だけが吸い込まれる。あまった光は吸い込まれずに透過する。われわれはこれらの光を見る(測定する)。

最後に:

 光や電子は粒子的側面と波動的側面をともに持ちます。エネルギーのやりとりという概念は粒子的側面で考えるとよいでしょう。一方、波動的側面は電子が原子や分子の中で運動するときに現れてくる(シュレーディンガー波動方程式、分子軌道法)、光なら上でしめしたプリズムで七色に分かれることと考えるとよいと思います。 

 ここで、電子の挙動は確率的な存在になり「電子はここにいる。」という言い方はできなくなります。上でモデル的に書いた電子軌道というのは電子の存在する確立分布を雲の絵であらわすしかないようになります。詳しくは量子力学の本を御覧下さい。ブルーバックスシリーズとしていろいろ手に入ると思います。

分子レベルの構造にもとづいて物理の立場から生命を理解しようとする手がかりがつかめてきました。このような分野は生物物理と呼ばれています。特にタンパク質の構造が次々とあきらかになってきているので非常に進展が速い分野です。

さて、クロロフィルに吸い込まれた光によってクロロフィルはどういう挙動をとるでしょう?光誘起によるエネルギー移動と電子移動の説明です。

次回

3−3.興奮したクロロフィル分子は何をする?

        光励起したクロロフィルの挙動(仮題)

御批判・コメント・ネタ提供はこちらまで→iida@toride.com

第八回おわり

1998/05/07

最初のページに戻る