3.光合成はどのようにおこなわれているのでしょうか?

 前回は光収穫系タンパク質の構造を簡単に紹介しましたが、今回は光反応中心の構造を説明いたします。

 この光反応中心の方が光収穫系タンパク質に先立つ10年ほど前、X線結晶構造解析がはじめて提出されたのです。それは光合成系の分子デザインがあきらかになったという以上に膜タンパク質の構造がはじめてわかったという画期的なことでもあったのです。

 また、この光合成反応中心の色素の配列がすっかり明らかになったことから効率的な電荷分離とそれを効率的に保ち、太陽電池としてはたらくことが実体的にすっかりわかってきたのです。

【色素】 

 光反応中心の色素はR. sphaeroidesの場合はBChla、BPheoおよびキノンからなります。

 右に示しますようにBChlaはこれまででてきたものですがBPheoは中心金属がなく窒素に水素が結合しています。

 キノンは六員環に酸素が2分子結合しています。

 光合成細菌R. viridisではBChlaではなくBChlbが入っています。

【色素系の構造と働き】

光反応中心のはたらきは以前概念図を示し説明したように光があたると電流を作り出し、太陽電池の働きを持っています。この働きは上の色素分子とタンパク質の組み合わせで実現されているのです。

 もう一度復習しましょう。

以前説明いたしましたダイマー構造は一番上に描かれています。そして対称にBChlaおよびBPheoがならび一番下にキノンがきます。

 電子移動はこの経路で右側を通って流れていきます。ダイマーでの電荷分離ののちに次々に電子をうけとっていきます。


 このモデル図のもとになった図を右に示します。この図はX線構造解析のデータで緑にマークしてあるところがバクテリオクロロフィル2両体(スペシャルペア[P])です。2両体からの距離はアクセサリーBChlaまでが11オングストローム、BPheoまでが17オングストロームです。電子が移動するには色素間が離れているとおもませんか?

 この右図はクリックしていただくと90度回転した図をみることができます。ダイマーが平行に重なっていることがこの図からもわかります。また、どちらの絵から見ても見事にC2対称軸をもっていることが理解できます。

 C2対称軸というのは180度回転したものがもとのものとかさなるものをいいます。

 さらにX線データに電子移動を書き込んだものを示しましょう。(2004/7/29追加)

 電子移動に話をもどすと電子移動には色素のダイポールモーメント(電子が走り回っている方向)も重要といわれていますが、実際にはそろっていないですね。そろっている方が電子の共鳴状態が形成されやすいと考えられるのに、そうはなっていない。いったいどうなっているんでしょう?実はまだまだ未解決な部分が多いのです。

【タンパク質の概形】

 この光反応中心もアルファヘリックスをまいた棒状のタンパク質が集まってできています。光収穫系タンパク質はこの棒状の一本一本が独立したものでしたが光反応中心ではそれらが結合したL, Mユニットそして、全体をささえるようなHユニットからなります(右図)。

 そして色素群はこのタンパク質にかこまれるように中に入っているのです。色素分子は光収穫系タンパク質と同様にBChla(b)は中心金属のMgがタンパク質のヒスチジン残基のイミダゾールの軸配位子による結合およびBChl環とタンパク質の水素結合により結合しています。

 BPheoは中心金属のMgがありませんのでタンパク質との結合はBPheoの環とタンパク質の水素結合になります。

【X線構造解析】

 以前より、この光反応中心中にはバクテリオ クロロフィルという緑色をした色素が入っていることがわかっていました。また、 それらの配列についても徐々にわかってきていました。特に二量体が存在し、光により電荷分離がおきていることはEPRスペクトルから予言されていました。

 1985年には結晶構造解析による決定打 が現われたのです。この研究はドイツの科学者によっておこなわれ、彼等はノー ベル賞を得ることができました。この研究により構造がすっかりわかり効率のよい光による電子の流れの秘密がわかったのです。

Deisenhofer J, Epp O, Miki K, Huber R, Michel H. Nature 1985;318:618.

 ここでは彼らの研究によりあきらかになったviridisのものではなくR. sphaeroidesのものをお見せましょう。ここでこれをとりあげたのはわかりやすさのためです。この図の方がより電荷分離とその後の電子伝達に関与しているタンパク質部分がよくわかります。上の図でモデル的に示した図はこれを簡略化したものです。H鎖、M鎖、L鎖を確かめていただけたでしょうか。

 RCの構造があきらかになったインパクトは大きく、続く十数年は分光法の発展が著しいこともありスペクトルの構造にもとずく電子伝達の解釈や理論が数多く研究されました。

 分光法はフェムト秒での時間分解が可能になり、フェムト秒での吸収スペクトルが測定されるなど、電子移動の様子の観察に適用されました。

【電子移動】 

 なぜこんなに電子移動にこだわるのでしょうか?まず一つには色素間が離れているにもかかわらず効率のよい電子移動が行われていること、そして、もうすこし見ていくと、以前書きましたが、電子は色素群の右側しかとおらないのです。タンパク質の左側の色素には電子は通りません。なのに左側と右側はほとんど対称な構造をしています(M先生はその理由がわかった、といってるそうです)。また、おどろくべきことにその速度は真空中とくらべて1000倍ものスピードなのです。さらに、通常化学反応は温度の上昇にともない反応スピードは増大していきますが、この電子移動は温度依存性がその逆で低温でわずかに電子移動がはやくなっているのです。

 その秘密は?タンパク質か?色素の配列なのか?色素の酸化還元電位なのか?ともちろんいくつかの要因が重なっているわけなのですが、それらをどう具体的にしらべるか。

 生物学的な方法では光反応中心の遺伝子を変化させ、部位特異変異株を作成するこころみが多数行われました。これによって色素とタンパク質のアミノ酸残基の相互作用を変化させその電子移動への影響を調べることができます。

 分光学的な方法はますます短時間での過渡現象を追跡し解釈するようになりました。

 理論的な方法では色素のエネルギー準位を計算する方法があみ出されてきました。この色素は8つの色素が電子的な相互作用していて、基底状態での電子状態も変化しているので非常に近似法が難しいと考えられます。

 他にもいくつもあるのですが、最近の分光学でのはやりは電子移動にともなうタンパク質部分の振動解析に焦点が集まっているように思います。特に振動がコヒーレントかどうか(論文がでているということはもうおわっちゃったかな?)。

【分子振動】

 速い電子移動にもかかわらず、なぜ、おそいタンパク質の分子振動モードをかんがえるのか?これは固体物理の枠組みの方がわかりやすいかもしれません。

 金属中の電子を想像してください。電子の移動(ポーラロン)がおこると、まわりの金属核(+)は均一に分散していたものが速い電子にひっぱられて金属核が部分的にあつまり(フォノンという)、これは電子を追っ掛けます。そして、おそいながらもフォノンに別の電子がひきよせられ、始めの電子を追っ掛け、あたかも対(クーパー対)となるという理論が提案されています。

 ここでこのプラスにひっぱられて電子の次の移動がはじまるために超伝導が可能になる、としたのがBCS理論による超伝導理論なのです。しかし、そのまま適用するのわけにはいきません。なぜなら、光反応中心は金属とは異なり単一電子素子なのです。固体物理のさらなる理論として非常に興味深いわけです。

 実際の測定ではフェムト秒の領域で分子(原子核)振動が見えたことにより、振動の位相緩和とエネルギー緩和が電子移動過程よりはるかに短い時間でおこるものとしてきたこれまでの考え方に疑問がもたれるようになったのです。

  Vos et. al. Nature 363, 320 (1993)

 Skourtis et. al. J. Chem. Phys. 96, 5827 (1992)

【人工光合成】

 また、この色素分子の構造をまねた人工光合成化合物が有機化学者によりつくられました。以前紹介した人工光合成分子も、ここで紹介した色素(カロテノイド-ポルフィリン環-キノン)からヒントを得て作られたということがいまならよくお解りになると思います。

 この光反応中心は我々が知りうるもっとも小さなそして完全に動作している単一電子素子量子デバイスなのです。このサイズまで人間は半導体なり分子なり使いこなせる技術が現在求められています。それがナノサイズテクノロジーといわれているもので、分子の配列、観察、アクセス方法、修復方法の課題がすすめられています。これに関しては後にとりあげましょう。

 この光反応中心の解明から14年。この分子構造を学ぶことでわれわれはエネルギー問題を解決するキーテクノロジーをつくりあげることができるでしょうか?非常に楽しみです。

 

第14回おわり

1998/09/01 未公開第1版

1999/02/12 公開第1版

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