2.光合成はどこで行われているのでしょうか?

2−5.光合成細菌って?

 光合成タンパク質の全容が明らかになったのは約10年前です。それは植物の光合成タンパク質ではなくて光合成細菌といわれる細菌の光合成タンパク質であきらかになったのです。高等植物の光合成タンパク質は複雑でまだ時間がかかりそうですが、徐々にその構造が明らかになってきています。

さて、この耳なれない光合成細菌とは何ものでしょうか?

光合成細菌の住処

 光合成細菌は沼の中などにいます。沼の中をのぞきこんでみましょう[下図(クリックで大きくなります)]。

 沼のなかの表面に近いところには藻類、ラン藻、好気性細菌がすんでいます。この下には紅色光合成細菌が生息しています。さらにその下には嫌気性細菌や、ニ硫化水素(H2S)を酸化して生息する細菌が生息しているのです。

 植物の光合成といえば緑にきまっているのにここで取り上げているのは紅色光合成細菌です。紅色といってもオレンジ色から赤まであります。紅色をしているのは紅色をしたカロテノイドが大量に含まれていて、植物とおなじ緑色の成分はかくれてしまっているのです。この色やその化合物についての話は第3章で取り上げるつもりです。

 これらの細菌はもちろん沼以外にもあちこちに見ることができます。ちょっとした水たまりの青や赤くなったところには光合成細菌が息づいています。またラン藻も光合成細菌の仲間で、最近はシアノバクテリアとよばれ、これは他のものより進化しているほうです。

 さてこの光合成細菌進化の過程上面白いことがわかっています。詳しくは第4章で取り上げるつもりですので、以下はごく簡単なイントロダクションとさせていただきます。

光合成細菌の特徴は植物のなかの葉緑体そのものに見えるということです。模式図を書いてみましょう。

 光合成細菌は原核生物に分類されます。それは植物細胞で核というものがきちんと他から隔てられた領域に存在しているのに対して、核が細胞の中ではっきりと区別されないのです。このはっきりしない領域の中に遺伝子が存在しているのです。

 そして真核生物である植物細胞中の葉緑体やミトコンドリアは器官として膜を形成しており他と隔てられている。そしてこれら葉緑体には独立した遺伝子が存在している。

これらをさらに詳しくしらべた研究者から原始真核生物が光合成細菌(ラン藻?)や好気性細菌をとりこみそれぞれ葉緑体やミトコンドリアにしたのではないかという説が提出されました(共生、下図)。このことがおこったのは20〜18億年前だといいます。

 この共生説について最近Natureに『最初の真核生物の「水素仮説」』という論文が発表されていました。

Martin W, Muller M. The hydrogen hypothesis for the first eukaryote. Nature (London) 1998;392:37-41.

おもにミトコンドリアでの代謝を考察した論文なのですが、共生生物の生成する分子状水素に宿主が依存することが共生関係を導いたということです。これはエネルギー代謝の比較により考察されたそうです。

 さて、この進化の重要なイベントをになった光合成細菌の種類には大きくわけて紅色光合成細菌と緑色光合成細菌がいます。ラン藻はこの二種の光合成細菌が1つのものにまとまった結果と考えられています。

2種の光合成細菌が1種のラン藻にまとまってどんなメリットが生じたか?

 ラン藻まで進化することによって光合成で酸素を吐き出すことができるようになったのです。これは大きな違いです。それぞれの光合成細菌の光合成タンパク質では水から電子を奪い酸素を発生させる力はありませんでした。二つの光合成細菌の光合成タンパク質が直列に組み合わされることによって始めて酸化力の増大がおき、酸素発生が可能となったのです。

 この酸素発生系による大気中への酸素の吐き出しこそ、われわれ現在の地球上の生命を形づくったものの1つです。酸素が大気中に豊富に含まれてくることによって生命は酸素に対して防御しなければならなくなりました。酸素は生命にとっては毒なのです。われわれはこの生命の進化の結果として酸素に耐える機構を獲得するようになったのです。

 光合成はイントロで生命連鎖のエネルギー注入点だと述べましたが、われわれがそのエネルギーを消費する時には逆に酸素が必要です。実は光合成系とミトコンドリア系は化学の目から見ると逆反応になっているのです。光合成でつくった酸素は光合成で作ったエネルギーを消費する時に消費され二酸化炭素をつくり出しているのです。

これらの光合成系のタンパク質はどのように作られているのでしょう?

 次回より第3章では光合成細菌の光合成タンパク質の説明を化学レベルで説明していきたいと考えています。そして、この地球をかえた酸素発生系については第4章で取り上げるつもりです。

第6回おわり

最初のページに戻る