2.光合成はどこで行われているのでしょうか?

2−3.光合成初期過程による電子伝達がひき起こすATP(アデノシン三リン酸)の合成

 光合成初期過程による電子の流れが光合成膜に起きていることは前回説明いたしました。この電子伝達エネルギーでご存じATPが作られているのです。

ATPとは化学物質で生体エネルギーの共通のエネルギー貯蔵物質となるものです。左に化学式を示しましたがここではこういうものだということで結構です。

ATPの詳しい構造、その反応については次回に説明するつもりです。今回はこのATPの生産をどのようにしているか、というお話です。

 さて、この膜を介した電子の流れ、いかにもエネルギーを生み出しそうです。どこかにモーターがあるのでしょうか?

 そうです。やっぱりそれは酵素の1つです。

 ATPの合成にはおおまかにいって2種類の生体エネルギー変換が働いています。

 はじめにこの電流をもとに水素イオンポンプ駆動して水素イオンの流れが作り出されているのです。

 次に水素イオンの勾配によってATPが合成されているのです。

 これはMitchellの化学浸透説と呼ばれているもので今日広く支持されている考え方です。1978年ノーベル賞受賞。

 ではいつもの光合成膜の絵に書き込みながら話を進めましょう。

 光合成タンパク質で電子の流れを作り出した後は、前回も出てきた赤くマーキングしたシトクローム類の電子伝達タンパク質が電子の流れをエネルギー源として利用して水素イオンを膜を介してくみ出しています。

 すなわちこの電子伝達タンパク質が電子の持つエネルギーを水素イオンを運ぶエネルギーに利用しているのです。

 以前書きましたように膜の中心部は水を嫌う性質があります。このため通常、この膜は絶縁体として働きます。それで、水素イオンは通常透過できません。この透過はこのタンパク質があってはじめて成り立っているのです。そしてこのタンパク質は、ただの透過ではなく濃度の傾きに逆らって電子移動の向きと水素イオンを流す方向を制御しているわけです。

 このタンパク質の電子伝達機構や水素イオンポンプの機構についてはまだまだ詳しくわかっていません。第3章ではこのタンパク質の電子移動系の説明をもうすこし取り入れるつもりです。

ここでは電子1つにつき水素イオン1つを運んでいると考えられており、これも驚異的な効率なのです。

 またここで膜を介した輸送が行われているのがポイントです。膜で区切られているからからこそ、くみ出して水素イオンを片側にためるということができるわけです。

 さて次に、膜の片側だけ水素イオンがたまってきて、水素イオンが濃くなるとどういうことがおこるのでしょう?

そうです。ペーハー(pH)が下がる。つまり酸性になるわけです。膜を介してpHは3位さがるといわれています。

 でもpHが下がったってエネルギーにはなりそうにありません。

 しかしこのpHの違いがATPの合成の引き金になっているのです。すなわち膜にはATP合成酵素というものがあり、水素イオンがこのタンパク質を通過するエネルギーでもってATPを合成しているのです。

 下の図を見て下さい。あらたにATP合成酵素を書き加えました。この酵素は膜中に埋もれている部分Fo部分と膜中から大きく飛び出ているサブユニットF1部分からなります。水素イオンがATP合成酵素の中を通って反対側に戻る時にATP合成酵素の6個のサブユニットのところでATPがADP(アデノシン2リン酸)とリン酸から合成されるのです。もはや電子伝達は表にでてきません。

 このATP合成酵素のF1部分はすでに分子レベルで構造がわかってきています。そしてさらに驚いたことに、この膜から突き出した部分はATPの合成をする際ぐるぐる回転するそうです。この回転の様子はビデオ撮影に成功しています。まさしく分子モーターです。[現代化学1997年7月p9, H. Nojiら、Nature (London), 386, 299 (1997),1997生物物理 学会秋]これについても後日簡単なコラムで取り上げるつもりです。

 ここで作り出されたATPは生体エネルギーの通貨といわれており、他の酵素により様々な物質合成につかわれたり、それらが最終的にタンパク質やデンプンといった物質に組み立てられていたり、筋肉の収縮などにも使われたりしています。

 いままでの反応をまとめてみましょう。

光合成タンパク質によって光エネルギーが電子に注入され電子はタンパク質内あるいは間のいわば電気回路をとおって光合成タンパク質に戻ってくる。すなわち光合成タンパク質は太陽電池そのもの。

 そして電子伝達タンパク質中を電子が通り抜ける時にその電子のエネルギーをうばって水素イオンを透過させる。

 この水素イオンが反対側に戻る時にATP合成酵素がATPを合成している。

 

 この膜にはATP合成酵素やナトリウム・カリウム-ATPアーゼがあり、それらを研究してきたボイヤー博士、ウオーカー博士、スコー博士の3人に1997年ノーベル化学賞が与えられました。

 これらの酵素の分子メカニズムについて最近はどんどんわかってきています。これらの分子レベルでの説明は第3章で行う予定です。

 次回:このATPはどんな役割を果たしているのでしょう?光合成といえば二酸化炭素。次回は簡単に二酸化炭素の固定についてふれます。

第4回おわり

(1998/04/01)

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