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2004年01月18日
サン=ジル=デュ=ガール
ー12世紀プロヴァンス派ロマネスク彫刻の諸相ー
山本 和寛 著
第4章
3 衣褶
サン・ジルの彫刻群に見られる多様な衣褶表現はいわば、装飾の感性と表出の趣向とが結び付いた「選り抜きの造形言語」(R・ジュリアン)というべきものである。ロマネスクの彫刻家達は古代美術に刺激されつつ、これらの言語を駆使してプロヴァンスの石に豊かな衣文を刻み込んだ。彼らが追求した技法上の諸問題を考察することはプロヴァンス派ロマネスク彫刻の独創性を正しく理解する上で不可欠な作業といえる。本節ではR・ジュリアン(René Jullian)によるプロヴァンス派ロマネスク彫刻の衣褶研究[113]に則して四つの局面からサン・ジルの衣褶を分析する。031118
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第一の局面は布地(étoffe)である。人体を含む布地を表現することは彫刻的に高度な技術を必要とする。ロマネスク彫刻の多くが布地を表現することは彫刻的に高度な技術を必要とする。ロマネスク彫刻の多くが布地と肉身を一つの塊として表すのに対し、サン・ジルの彫刻家達は布地自体の厚みの表現という難しい問題に対処した。彼らは現実感を強調するために肉身から布地を部分的に引き離し、足、腕、首の部位でこれを下から穿っている。明暗の対比によって著しい効果をあげるこの手法は、聖ペテロ[Pls. 96, 97]をはじめとする多くの使徒像に認められる。一方、布地と肉身のみが彫刻家の関心事であったわけではない。布地はしばしば刺繍を模した縁取りによって驚くほど豊かなものとなる。[Pl 97 参照] トレパンによって開鑿(かいさく)された穴の連続は華麗な装飾効果を布地に与えているのである。031121
第二の局面は襞(drapé)である。布地は大まかな襞の量塊によって秩序づけられるといってよい。サン・ジルの襞の形体はそれぞれ対立する三つのグループに分類することが可能である。すなわち、「緊張した襞」(le drapé tirant)と「ゆるんだ襞(le drapé lache)、「密着した襞」(le drapé tombant)と「ひるがえる襞」(le drapé flottant)である。[114]
片足に重心をかけて腰を張り出す姿勢や、膝を前に出したり腕を挙げたりする姿勢には「緊張した襞」が見られる。聖ミカエルの槍を持つ右腕[Pl. 89参照]や洗足の場面のキリストの上着[Pl. 21参照]、跪くマギの右足に掛かる裾[Pl. 7 参照]にこの襞が見て取れよう。次第に収斂し深くなっていくこの襞は、しばしば最も感じやすい一点へと目を導いていく。こうした効果の最も見事な例としてキリストに接吻するユダのマントや、キリストの足を拭うマグダラのマリアの上着が挙げられる。[Pl. 100, 101参照]031122
「ゆるんだ襞」は人体の動きではなく、襞自体の美しさを表現している。これにあてはまるのはノリ・メ・タンゲレのキリスト[Pl. 30 参照]やハード・マスターの手になる二使徒像[Pl. 86, 87]に見られるゆるやかに波打つ襞である。これらの襞は求心的な円形をなす段々や三角状の折り目の連続で重力を示唆する。多くの場合、彫刻家は襞の片側に窪みを作り、光と影の対比で襞のうねりを強調している。
「密着した襞」はプロヴァンス地方でも稀にしかみられない。この襞は布地にそって人体の曲線を柔らかになぞり、腿のふくらみや膝骸骨の形をはっきりと浮かび上がらせる。ソフト・マスターの手に帰せられる中央扉口のレリーフ群、神殿から商人を追い払うキリストの下半身にこれがうかがえる。[Pls. 71, 72 参照]031130
「ふくらんだ襞」とは聖バルトロマイ[Pl. 77]、聖ヨハネ[Pl. 94]、聖ヤコブ[Pl. 98]の袖に顕著な、ふくれたように丸い襞のことである。この襞には管状や句点状の窪みが彫り込まれているが、つまるところ、これらは明暗による装飾的効果を意識した絵画的アクセントといえる。荒々しい影のタッチと強烈な光を対比させるこうした手法は石棺彫刻においても一般的に用いられた。[115]
「垂れ下がる襞」はサン・ジルのほとんどすべての彫刻家に共通する手法である。彼らはこの手法を用いるに当たって、しばしばありがちな固さと単調さをうまく退けたといえよう。その理由としてはジュリアンの指摘した以下の工夫が挙げられる。
1 すべての裾に同じ長さを与えるのを避けてきたこと−−−−彫刻家は襞の先端部をなす裾に段状のなだらかな湾曲を与えることで襞の効果に微妙な変化をもたらしている。[Pl. 95, fig. 14 参照]
2 襞の突出を多様化させたこと−−−−断面図[fig. 15]から理解されるように彫刻家は非常に曲がりくねった形体で襞の突出を構成している。
こうした工夫はプロヴァンス地方全体でもサン・ジルにめだって認められるといえる。「ひるがえる襞」はロマネスク彫刻に一般的に見られる手法である。例えばヴェズレーの人物像のこのうえなく優雅な裾が挙げられよう。[Pl. 102 参照]この特徴的なきのこ状の折り返しはサン・ジルにおいても聖ミカエルや聖ヤコブ、聖パウロのマントに顕著に認めることができる。[Pl. 93, 103参照] ジュリアンはこの手法の起源を特にブルゴーニュ地方にもとめたが、南西フランスからの影響も考えられる。[116] いずれにせよ、この襞が同時代の写本にも多く見られることは留意すべきである。[117] 031214
襞に続く第三の局面は皺(plisée)である。これには大まかに分けて「くぼんだ皺」(le pli en creux), 「平らな皺」(le pli plat), 「浮き出た皺」(le pli en relief)という三つの型がある。[118] [fig. 16, 17, 18 参照]
溝状に衣の上を蛇行する「くぼんだ皺」は聖トマス像の腰のあたりにはっきりと見て取れる。[Pl. 80 参照]この皺はトゥルーズのサン・セルナン教会(Saint-Sernan)の後陣周歩廊のキリスト像[Pl. 104]に共通するものであり、明らかにトゥールーズ派に由来する手法といえる。聖トマスの他にもブルヌスの手になる二使徒像[Pls. 82, 83]にこの皺を見ることができる。
「平らな皺」とは「垂れ下がる襞」の裾口にしばしば見られる朝顔状に開いた形体を指す。ソフト・マスター及びハード・マスターの使徒像[Pls. 84, 86]にその顕著な例を見ることができるが、聖ペテロ像の装飾を施された裾にも、やや丸みを帯びた形でこの皺が認められる。[Pl. 97 参照]040104
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「浮き出た皺」とは肘を曲げることにより上腕部に浮かび上がる衣服の弛みのことである。聖マタイの右腕においてこの皺は単純な平行線に過ぎないが、聖パウロの右腕においては五目状の複雑な褶曲となっている。[Pls. 76, 99参照]これらの皺の周囲は角をやわらげており、布地のヴォリュームは明暗の効果によってはっきりと示される。
残る第四の局面は彫刻家達の光(lumière)に対する意識である。ロマネスクの彫刻家達が陽光降り注ぐプロヴァンスの地において光に対する高度の感性を磨いたことは想像に難くない。事実、プロヴァンスのロマネスク彫刻は、明暗効果において際立って装飾的かつ表出的な傾向をもっている。この点で比類のない見事な作例はサン・ジル北扉口のタンパン[Pl. 6]である。ここにおいて中央部分を占める聖母子像は大まかな明暗のタッチをつけられているが、これを囲む両脇の彫刻群には意図的に繊細なタッチが施され、両者は鮮やかな対照をなしている。こうした手法の対比はタンパン全体の視覚的効果を配慮した結果とみることができ、光に対する作者の鋭敏な感性をうかがわせる。また過剰なまでにトレパンを多用し、絵画的ともいえる明暗の対比を追求する傾向もサン・ジルに特徴的なものである。ほぼ同時代であるシャルトルの人像柱の衣褶にこうした表面的明暗効果への配慮は認められない。[Pl. 105 参照]
サン・ジルのファサードは複雑な衣褶技法の混合においてロマネスク美術の最も円熟した段階を示している。これらの衣褶技法の可能性を彫刻家達はそれぞれ独自に追求したといえよう。こうした様々な試みはサン・ジルのファサードを「文字通り彫刻研究の演習室」[119]たらしめている。040118
ーーーーーーー今回更新分ここまでーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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Pl. 89
Pl. 21
Pl. 7
Pl. 30
Pl. 86
Pl. 87
Pl. 71
Pl. 72
投稿者 iida : 2004年01月18日 23:37
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