モワサック/moissac

 モワサックのタンパンは黙示録的啓示にあふれている。このタンパンのモチーフは聖書のヨハネの黙示録によっているのである。

 タンパンの中央はキリストだ。その周りの生物達(人、牛、獅子、鷲)の象徴的な意味はすでに書いたので、よんでいただいているかもしれない。

 ここではタンパンのもうすこしきれいな画像を用意したので、もうすこしこのタンパンの意味についてふれておこう。

 マール氏によればこのタンパンは8世紀頃スペインで著されたベアトゥスの「ヨハネの黙示録注解」の写本の影響のもとで製作されたものだという。それは書き写され続けサン・スベールで11世紀に製作されたものがパリ国立図書館にある(Ms. Lat. 8878)。

 はじめに「ヨハネの黙示録」の該当する場面を紹介しよう。 

4天上の礼拝がそれである。

 タンパンの外側から見てほしい。小さな人物像がたくさん彫られている。右にその拡大をしめした。この人物は黙示録の

4.4 また、玉座の周りに24の座があって、それらの座の上には白い衣を着て頭に金の冠をかぶった24人の長老がすわっていた。

 をあらわしている。したがって24人いる。この長老たちはみな玉座=キリストをみている。頭には冠をかむり、鬚をはやし、手にはヴィオールをもっている。この写真でははっきりしないが一体一体ひざの組み方など体の向きや顔の向きがことなりタンパン全体の表情なり空間の方向性を巧みにあらわしていることに注意してほしい。

 さて玉座中央のキリストに目を向けよう。キリストのまわりは先にも書いたが4体の生物である。これはヨハネの黙示録によると

 4.6 この玉座の中央とその周りに4つの生き物がいたが、前にも後ろにも一面に目があった。

 第一の生き物は獅子のようであり、第二の生き物は若い雄牛のようで、第三の生き物は人間のような顔を持ち、第四の生き物は空をとぶ鷲のようであった。

この4つの生き物には、それぞれ6つの翼があり、その周りにも内側にも、一面に目があった。彼等は、昼も夜も絶えまなく言い続けた。

「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、全能主である神、主、かつておられ、今おられ、やがてこられる方。」

というのをあらわしたものとなっている。しかし実際には6つの翼というのは描かれていないし目も表現されていない。翼が省略されたのは、これはタンパンにきっちりと生物を埋め込んだからであるかもしれない。なぜなら写本では翼は表現されているからである。写本では目は表現されている。あるいはこのタンパンも当初色が塗られていた時には目が描かれていたのかもしれない。

 私が気に入っているのは右下の(たぶん)牛である。からだをよじりながらキリストを見上げながらくびをこちらに見せていて実にこの首がいい。

 さて中心のキリスト。この黙示録では竜との戦いにミカエル大天使を派遣して見事勝利をおさめる指揮官である。顔は細面で目はつぶらに描かれている。

 頭の後ろにはリングがあり十字架がかたどられている。そして光背もつけられていることが見ることができる。

 さてもちろん彫刻表現であるならば、衣服の表現というのが重要で向かって右肩から左に布を流しているのも写本どおりだ。衣服のひだの表現はベズレーのものとくらべてやや平板であるが、ひざから下はかなり細かく刻まれていることがおわかりかと思う。むかって右裾と左裾の表情を対称にせずに流しているのは静止しているキリストにギリギリの動きを与えているのである。

 足ははだしでこれはなぜだろうか?写本の人物もはだししかみたことがないような気がするのだが気のせいだろうか?

 さて部分を見た後は、もう一度タンパンの全体を見てみよう。この狭い空間にそれぞれの体のサイズをかえて破たんなくおさめている。今日的なパースペクティブでみるならそれぞれのサイズはほぼ同じにしなければいけないのだ。だがキリストを大きくそして長老を小さく描くことで長老はキリストから離れた位置から囲んでいることがわかる。物理的な遠近法ではなくて心理的な遠近法がとられていて、このことがタンパンの空間を大きなものに見せている。しかも、先にのべたが長老の首の向きをつかうことによってこの閉じられたタンパンの空間に動きを与えているのである。

 冒頭でも述べたがマール氏によれば、この図象はリエバナの修道院長ベアトゥス(730頃-798年)の写本からとられたという。サン・スヴェールにある写本はそのもっとも有名な写本で、グレゴリオ・ムンタネル修道院長(1028-72年)のもとにステファヌス・ガルシヤによって書かれたという。この別の写本がモワサックにもかつてあり、彫刻師はベアトゥスの写本を参考にしたというのがマール氏の主張である。

 このテーマ自身はローマのバシリカやカロリング朝の写本にあらわれたそうだが、それらの長老は立ち上がっていて、それぞれの冠を小羊にまたは単純なキリストの胸像に捧げているそうで、このモワサックの図象とは似ていないそうである。

 逆にベアトゥスとモワサックの類似点は冠、杯、スペインのギターに似たヴィオールといい、指物細工の座席をあげている。また、房々した髪の垂れ下がった狭い額の天使も同じ類いだという。また、外衣や長衣のひだも南フランスの写本画師たちの伝統に完全に従っているそうである。(ヨーロッパのキリスト教美術 エミール・マール著 柳 宗玄/荒木成子訳)

 マール氏の論拠は以上のようなものであるがそれならばなおさらのこと、その写本をもっとみてみたいという気がする。デュビーのヨーロッパの中世にはカラーで1ページだけ紹介されているけども。どなたか御存じ?

K. I. 記

1999/04/06 ver1.0 (限定公開)

1999/04/13 ver1.1 (公開)

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このHTMLファイルを父に捧げる。私の学生時代のヨーロッパ旅行に際し、父がカメラの使い方を教えてくれたのでこのサイトの写真をうまく撮影することができた。しかも旅行から帰ってきて私がフィルムを散らかしてたものをまとめておいてくれた。父は1999/2/27リンパ性急性白血病により亡くなった。58歳。