タンパンはロマネスクのクリュニー派にとってはもっとも重要な彫刻。教会の入り口の上扉に位置している。教会の顔ともなるべき位置においてあるわけである。顔であるからには他の聖堂とは異なるべくユニークな彫刻であるべきである。事実そのとおりでロマネスク様式という単一な図像概念はないのではないかと思うくらいテーマから細部にいたる象徴まで同じものはない。以前すでにタンパンについてのべた。今回、インタネットおよびコンピュータ環境の向上により画像の大きいものでもいけるようになったのであらためて画像を作成した。それらに簡単に現時点のコメントをつけた。写真はクリックすると大きくなる。
タンパンはキリスト精神世界そのものを一枚にまとめたものだ。ここではさまざまな聖書内および聖書外伝のイベント、象徴、天国、地獄、罪があらわされる。素材は10世紀以前に成立した写本の挿画もかかわってくるという。以下簡単にながめてみよう。
お約束として中央のやや大きい像はキリストである。以下5枚を見比べることでテーマも異なり、キリストのイメージも異なり、彫刻の様式も一定ではないことがわかると思う。
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コンクのサントフォワのタンパンである。コンクのタンパンの特徴は天国と地獄が具体的にえがかれていることである。 中央キリストの向かって左が天国部分。 右が地獄。 彫刻表現をみてみると天国部分の静的な表現にくらべ地獄部分はなんとも動的である。おくれてきた画家ヒエロニムス・ボッシュをいつも思い出してしまう。 以前書いたのでくわしくは述べないが聖ミカエルが秤をもって善悪をはかっている。これはこの下のサンラザールでも同様に見られる表現である。 また罪としては乗馬からつき落とされているのは「傲慢」、首に金袋を下げて首吊りにされているのは(ユダのように)いるのは「吝嗇」、そして「淫楽」は鎖で繋がれた男女。つまり世間にはこういう罪がまかり通っていたわけだ。ちなみにニーチェは「ツァラトゥストラはこういった(氷上英廣 訳 岩波文庫)」で「肉欲-とらわれない心にとっては、無邪気なもの、地上における楽園の幸福、すべての未来が、現在に寄せるあふれんばかりの感謝。」と述べている。 |
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オータンのサンラザールのタンパンはキリストもややグロテスク。全体もグロテスクである。人体表現は引き延ばされており、さらにひざを曲げ振動さえしている。コンクと同様左が天国、右が地獄。下部は最後の審判の復活をあらわしている。埋葬された死者達が棺からでてきたところだという。 天国と地獄という概念は今でも健全で、都合の悪いものを取り除いた世界が天国。都合の悪いものがあつまったところが地獄である。 このタンパンはあまりに気持ち悪がられて宗教革命の前にしっくいで塗込められキリストの頭部はとりはずされて別に保管されたために宗教革命や革命の破壊を免れたということだ。 後日このタンパンはふたたび姿をあらわし、我々に栄光のロマネスクを再び饒舌に語りかける。 |
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ベズレーのサンマドレーヌ。このタンパンほど布教活動に燃えたキリスト世界をあらわしたものはない。大きなキリストは手をひろげ布教の光をはなっている。私のような非キリスト者にキリストの栄光を授けてくれるというのである。非キリスト者は外周にきざまれた耳の大きなピグミー達やユダヤ人があらわされている。世界中どこでもキリスト教を布教しキリストの愛の世界を広げる-恐怖心によって。キリストはまだ恐怖の対象でもあった。愛に移行するのはもっと時間が必要だった。 これは当時行われた十字軍であきらかにイスラム勢力におされていた聖職界の大本営発表のようなものだ。ベルナールもここで十字軍を正当化する説教をしたそうだ。合理的な暴力は正義なのだろうか? 図像にもどろう。キリストの袖の下は使徒たち。再外周のうごめく虫たちは黄道12星座のもの。それにつれて人々が季節にあわせて労働するべきことが描かれている。以前のドキュメント。 |
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モワサックのサン・ピエールの彫刻は絵の同定がスペインのリエバナのベアトゥス写本のものだということがマール氏におこなわれて以来ロマネスク分野の本では何度も取り上げられている。 写本はキリストと4頭の人、牛、獅子、鷲、長老24人が描かれておりヨハネの黙示録の幻視によっている。 キリストのまわりに4頭の怪物とさらにその半分のサイズで長老が描かれている。長老はバイオリン(ヴィオール)をもち音楽を奏でている。 だが、写本とくらべると彫刻の表現の方がかなりスタティックな感じがする。これは半円形におさめなければいけないという要請のせいであるが、長老達が整然と並んでいることと、キリストの周りの4頭の生物達は台形を形作りこれが非常に安定感を与えているのだ。かれらの広げた翼の美しさを味わってほしい。以前のドキュメントはこちら。 |
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トゥールーズのサンセルナン。昇天するキリスト。比較的シンプルな構図である。また立体感は強調されておらずレリーフといったところか。 ここでは衣服の表現が上のものと比べてやや異なっている。また、他の人の頭がすべて上を向いているために上部へのベクトルが強調され上昇の加速度が強められている。 キリストのまわりに二人の小さな人物がはりつき、その外側には2枚羽根の天使。最も外側は人? 最近気がついたのだがこのタンパンの水平のしきりにも葡萄唐草紋が使われている。以前のドキュメントはこちら。 |
以上簡単にフランスロマネスクのタンパンについて見比べた。どれがお好みの彫刻でしたでしょうか?私としてはモワサックをとりたい。なぜなら私は音楽もすきなので見ていると音楽的想像力がかきたれられるのである。
ロマネスクをすぎると聖母マリアが急にクローズアップしてくる。それにともない彫刻は洗練していきテーマはわかりやすいキリスト教ネイティブになっていくようだ。ロマネスク世界はまだまだ旧来の土着世界の想像力がはばたく余地があったのである。
画像の再調整は現在もすすめている。部分のもっと細かいものもそのうちアップロードするつもり。私としてはこのページを立ち上げた初期につくった画像なので初心にもどった感じである。Enjoy Romanesque!
2000/1/17作成・2002/6/16 リンク再編