ロマネスク教会の建築と彫刻
ロマネスク教会の彫刻紋様の特徴
クリュニー派のロマネスク教会は紋様にあふれている。彫刻の本体だけに注目すると紋様までは目が向かないかもしれないが、紋様に目をむけることでロマネスクの時代にいかに多くの要素が流れ込んでおり、また、それらがわれわれの記憶にどれだけ流れ込んできているかがわかる。
ロマネスクの彫刻の文法において
(1)動物と植物の融合、もしくは別物だとは全く思っていなかったこと
(2)無限のくり返し模様
(3)オリエント由来の紋様がごっちゃにまぜられている
が顕著である。前2者はヨーロッパ古代のケルトの異教の記憶。そしてオリエントは当然ローマ=ギリシア文化を経たシリアやエジプトの記憶である。これらの記憶は多くは写本によっていたようだ。彫刻師は8〜9世紀に盛んに描かれた写本を参考に彫っていったとされるのである。
写真を見ていってみよう。上の柱頭はモワサックのものである。中心に弓を引き絞る悪魔が見える。この悪魔の上の模様。これは幾何学的にあしらいオリエント的な要素を感じることができるがよく見ると植物がつた状にのびてまいたものであることがわかる。
このモワサックにはこれらの模様をさらに抽象的に繰り返した模様の柱頭もある(右)。
モワサックの正面タンパンの下の柱の向かって右側側面にはイザヤ(エレミヤ?)の像があるがこの頭にあるのはコキーユ(帆立貝[巡礼の象徴])にみえるがよく見ると実は葉のまいたものであることがわかる。<イザヤ(エレミヤ?)の全身像>
モワサックでは植物が動物であるかのような動的な形態をとり、それゆえ植物が繁茂している表現を作り出すことを可能にした。そして全体的な構図はオリエント的な幾何学的な枠組みが採用されているものが多いと考えられ、生命感と構成感を両方もつことに成功している。
このように不思議にうねる植物の彫刻はオータンのサンラザールのタンパンの外周にも見ることができる。<サンラザールのタンパン>
このころヨーロッパの土地の生産高が上昇し、修道院の生活では自然とともにいることを奨励したためにこのようなまなざしで植物を見ていたと考える説もある(デュビー)。
モワサックの正面を見てみよう。正面のタンパンのふちにはなにが彫られているか?これこそケルト風の無限くり返し模様である。
ロマネスクという原義がローマが堕落したものではあるが、かれらは当時これだけのものをデザインし、彫刻する能力があったのである。
このくり返し模様についてはいったい何をもとにデザインしたのか私はまだよくわからない。不思議な紋様である。
モワサックのタンパンの下の紋様は葉を対称に扱ったものかもしくは花である。これは植物の生い茂るさまよりも幾何学的な形状を重視したオリエント的な要素を感じる。もちろんこの要素は始めにしめした柱頭彫刻の全体的なデザインにも登場している。そしてこのデザイン。われわれの日常に使用するお皿の紋様そのものでもある。
このようなオリエントの要素はサンジール・デュ・ガールに顕著に見られる。この教会はローマ時代の遺跡をそのまま使っている部分もあるという。この南フランスアルルの地域はかなり早くからローマ化されているためか装飾はむしろ古代オリエントの影響がつよく感じられる。左の装飾ではコリント式の柱頭のモチーフであると考えられる。
また、たとえば左の「ラーメン」模様(サンジール)。これはギリシアの神殿にも使われているだけでなく、中国経由であるのか現代の我々のラーメンどんぶりにも堂々と登場している。実に3000年をこえる不滅の紋様である。
ところで非常に重要な彫刻の衣服のひだの模様。これはそのうち取り上げます。
1998/7/23 作成(2002/6/16リンク修正)
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