異形のものたち
異教由来の彫刻表現:上は鹿を追うケンタウロス中世ヨーロッパはゲルマンの宗教からキリスト教へと変革していったころである。もともとの神々はキリストの神によって征服され、図像表現には、たっぷりともとの神々が異形のものに変形されて描かれているという構図が提案されている。それらはキリストを描いた像よりもより土着のにおいがし、それゆえにしばしば魅力的でさえある。ただ、何を表しているかはわからなかったものも多い。
サン・ジールの彫刻表現は正面を4層にわけて考えると比較的すっきり見ることができる。
1層目は3つのタンパン (→中央のタンパン)
2層目はキリスト受難のレリーフ (→正面左扉上)
3層目は聖人の列柱表現 (→同上)
4層目の最下層が今回の土着臭い表現である。
まさしく民族の記憶の最下層に対応するかのようにその彫刻達は最下層に置かれていると言える。
以下の写真はクリックで拡大できます。
ライオン
ライオン?の左にいる舌をだしたものはなんだろうか?またライオンの下のアルカイックな文様に注目。ギリシア-ローマから流れ込んでいることが類推されます。
ラクダ・猿
猿は縛られている。一体なんでしばられているのだろうか?運搬中なのだろうか?
天使とセイレーン(?)
ハープをもつ美女は天使となにをはなしているのか?彼女の向かって右手には木や動物の表現がある。この動物達(子羊?)の群れかたの表現はなかなかにうまい。
騎士
騎士同士の戦闘の結末。鎧はうろこ状であるのでまだ小さく軽いことがわかる。また、戦闘の最後は身の代金をはらえば命を助けてもらえたようであるが、はらえなければこの図像のように、のどに剣をつきたて敗者を殺すのである。勝者が覆いかぶさるように剣をつきたて、敗者がのけ反ると共に、敗者の楯がひっくり返って完全におき上がりが不可能なことをみごとに示している。
鹿を追うケンタウロス
リングを2つ重ねて、その右に鹿を配置し左にはそれを追うケンタウロス。弓矢を持って追っかけている。どちらもリズミカルに足が描かれていることに注目。リングに入れることで意匠性が非常に増している。リングの上には鳥が描かれている。
また、列柱の聖人の足の下にもライオンなどが踏み付けられていてこれも異教の神々と考えられているようだ。
これらに共通しているのはプロポーショナルな描写が崩れていてむしろデフォルメされたものではあるが、細部まで生き生きと彫刻されていることである。
一方、これらの表現とは逆にローマ風の様式そのままの人間の面などがあって面白い。例えば右に示すようにローマ遺跡からもってこられた柱頭はそのまま用いられているようである、このときどれか表象を統一しようなどとは考えなかったかのごときである。それはまた別の機会に。