3 ファサードの図像配置の概観
(タンパンフリーズ/まぐさ連続体)(4)
南扉口タンパン[Pl. 35]は、当時としてはこの位置に配されることが例外的であった磔形図に当てられてる。[20]その図像構成は伝統的な太陽と月の擬人像、エクレシアとシナゴーガの寓意像、さらに聖母、聖ヨハネ、ローマの兵士からなる興味深い混淆を示し、他に類例をみない配置となっている。中央の十字架上のキリストは正確な人体比例にもとづいており、傾いた首、肋骨が浮き出た脇腹、腰布に覆われたたくましい下半身に見られる写実性はロマネスク彫刻においては際立って異色といえる。[Pl. 36] キリストは聖母(左)と聖ヨハネ(右)にみとれて今まさに息を引き取らんとするところである。
聖母の左にはエクレシアがビザンティンのドレスをまとって表されているが、甚だしい損傷のため胸から上は推測するより他はない。おそらく左手はキリストの血を受ける盃を差し出し、右手には勝利の象徴である軍旗を持っていたのであろう。旗の断片が左上に残っている。エクレシアと対置される形でタンパン右側に配された長いヴェールをまとうシナゴーガは、空から舞い降りてくる天使によって荒々しく突き倒されている。彼女の被る円形神殿のような形をした宝冠はまっさかさまに彼女の頭のから抜け落ちようとしている。シナゴーガの権威の失墜を示すこの場面は伝統的な表現にはみられない極めて劇的な形式で表されている。天使のはばたく翼はタンパンの周辺部に接しており、ちょうど北扉口の同位置の天使と対応する形である。タンパン左端には二人のローマ兵士が配される。彼らは腕を差し上げてキリストを讃えている。「まことにこの人は神の子であった」(マタイ27:54)多くの磔形図に描かれるローマ兵士はキリストを槍で突いて責苦を負わせる役であるが、ここにおいて彼らは積極的に信仰告白をする立場にある。
レリーフの終末をなす南扉口右側の隅切りには同定がはっきりしない二場面がある。このうち、三人の聖女が着座の人物に向かい合う場面についてはR. ハーマンのいう『弟子達にキリストの復活を語る三人の聖女』とJ. F. スコットの示唆する『聖女達に姿を現すキリストという二つの解釈が成り立つ。[21] 一方、これに続く最後の場面についてはハーマンが『昇天』と考え、スコットが『弟子達に姿を現わすキリスト』としているが、彼ら自身決定的な同定とはしていない。[22]
以上がファサード上層部の図像配置の概略であるが、個々の場面に関する詳細な検討と全体の図像プログラムの解釈については第三章で扱うものとし、次章ではファサードの成立過程についての学説史をまとめる。
第1章の3入力終わり19990101
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