2 ファサードの建築的様相の概観 (2)
[Pl. 4] [Pl. 5] [Pl. 3] サン・ジルのファサードでさらに注目すべき要素は、扉口間に分断して配置された持ち送りとフリーズからなる、エンタブラテュアである。H・フォションの指摘するように、これらは建築構造的には何ら機能的な要素ではなく、障壁ファサードにおいて「エンタブラテュアのふりをしている」にすぎない。[10]しかし、この「擬エンタブラチュア」は視覚的な効果において三つの扉口を有機的に結ぶ絆を形成すると同時に中央扉口を強調している。ファサード全体の統一感はこの効果に負うところが大きい。
エンタブラチュアはコリント式の柱頭をもった六本の独立円柱によって古代の柱廊風に支えられている。実際これらの円柱は古代遺跡からの転用物であり、それぞれ長さが異なるために台座の高さによって調節しなくてはならなかった。最も短い柱(3.06 m)はうずくまった一対のライオンからなる高い台座の上に載せられ、最も長いもの(3.06 m)は地表すれすれの単純な台座に設置されている。このように古代の遺物を利用することはロマネスク美術においてしばしばみられることである。[11]
エンタブラチュアの下には古代建築のアーキトレーヴの装飾から直接影響をうけた豊かなアカンサスの巻葉装飾フリーズ[Pl. 4]が走っている。この巻葉装飾フリーズは脇扉口において人物フリーズ/まぐさ連続体と接合するが、フリーズの繋ぎ目は外側の柱頭に隠され目立たぬように配慮されている。巻葉装飾フリーズは脇扉口をはさんでファサードの両端にまでおよび、中央扉口においては縦方向にも配されている。
巻葉装飾フリーズ下の、付け柱によって分けられた壁龕には八人の使徒像と一対の天使像がファサード前面に並置される。[Pl. 5参照] 中央扉口隅切りにニ対づつ配された四人の使徒像は付け柱によって分けられておらず、巻葉装飾フリーズを支えるカリアティードのような効果を出している。[Pl. 3参照] 彫像は等身大をやや上回りほぼ2 mに達する。彫像を支える台座は三層からなり中層には細かな条線が施されている。
以上がファサードの建築的様相の概観であるが、個々の要素をさらに検証していくといくつかの問題点が浮かび上がる。前述したように中央扉口と脇扉口では高低に落差がありのみならず構造上の相違が認められる。このため連続フリーズの接合に不都合が生じ、意図的な処理が施されている。また個々のフリーズ・ブロックにはしばしば物理的な不規則性が認められ、様式的な違いもはっきりしている。多くの研究者にとってこれらの変則的要素は現ファサードの成立過程におけるプランの変更を示唆するものであった。これに関連して中央扉口側壁から突き出た独立二重円柱が、放棄された原プランの残余物としてしばしば言及されている。[12]
次節ではファサードの図像を概観しながらプラン変更節を裏付ける証拠とみなされてきた図像配置の不規則性の問題を提示する。