第4章 <<ファサード彫刻の様式的諸相>>
2 作者 サン・ジルの彫刻が複数の作者の手になることは明らかである。個々の彫像、特に使徒像に認められる様式の差異は興味深い問題であり、これまで多くの研究者によって考察されてきた。なかでも1973年のW. S. ストダードの研究は詳細な分析から5人の作者を割り出している点で注目される。[111]
ストダードの分類する第一の彫刻家は、聖マタイ[Pl. 76]と聖バルトロマイ[Pl. 77][Pl. 75 参照]に「ブルヌス、我を作れり」"Brunus me fecit"と記した、かのブルヌスである。重々しいヴォリュームを特色とする彼の作風は古代彫刻のモニュメンタリーを強く意識したものと言えるが、人体のアーティキュレーションはここでは重視されない。使徒像は厚く折り重なった衣に包まれており、全体的に動きに乏しい。
これに比べて、より中世的な作風で際立っているのが第二の彫刻家、聖トマスの石工 (Tomas master) である。彼の手に擬せられる聖トマス[Pls. 79, 80]、聖小ヤコブ[Pl. 81][Pl. 78参照]の彫像は、線的かつ平面的な様式を示し、S字状に折り返す裾や交差させた脚などにブルヌスの作品にはない律動感が認められる。中央扉口下部レリーフの『カインとアベルの捧げ物』[Pl. 82]、『アベル殺し』[Pl. 83] にも同様の造形的特色が見て取れよう。この彫刻家の出自をアングレームとみるか、トゥールーズとみるかでは意見の別れるところである。[112]いずれにせよ、彼の作風はプロヴァンス地方には異質な南西フランスの様式を示している。
第三の彫刻家はソフト・マスター(Soft Master)と呼ばれる。彼はヴォリュームの表現においてブルヌスに近いものをもっているが、「密着した衣褶」の繊細な処理は彼独自の感性にもとづいている。軽く脚を浮かせたり、人体のアーティキュレーションを際立たせるために腕や腿の周囲の折り目を柔らかに形造る彼の手法は、他の彫刻家には認めることのできないものである。ファサード右手壁面に配される二使徒像[Pls. 84, 85]の他、北扉口のレリーフ郡(『マギの礼拝』『エルサレム入城』)と中央扉口左隅切の『ペテロの否定の予言』が彼の作とされている。
第四の彫刻家はハード・マスター(hard Master)と呼ばれる。彼はファサード右手壁面の残る二使徒像[Pls. 86. 87]と南扉口のタンパン及びまぐさを手がけたと見られている。その作風は人物像の厳格なシルエットにおいてブルヌスに共通するが、丸みを帯びた衣褶の線はソフト・マスターとの関連を示している。(特に、脚の上に垂れ掛かり口を広げた裾)しかし、ソフト・マスターの軽く流れるような手法とは対照的に、布の折り目は重々しくかさばり、まるで生地そのものが厚くこわばっているかのような印象を与える。深く刻まれた壁は光と影の対比を協調する一方、胸や膝の上で螺旋状に渦巻き、バロック的(ハーマン)ともいえる生気に満ちた形式化を示している。
<その2につづく>
2001/6/17
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