第4章 <<ファサード彫刻の様式的諸相>>

1 古代美術の影響(前編)

[Pl.58] オランジュ凱旋門

    円柱台座刳形装飾

[Pl. 59] サン・ジル聖歌隊席跡円柱台座刳形装飾

[Pl. 60] 古代石棺彫刻条線装飾(Wilpert)

[Pl. 61] サン・ジル クリプト内壁 条線装飾

[Pl. 62] ニーム メゾン・カレ(前1世紀)コーニスの装飾
[Pl. 10] エルサレム入場(ここでは上部の文様に注目iida)

[Pl. 63] サン・ジル
     コーニス
     ギリシア雷文

 サン・ジル、ひいてはプロヴァンス地方のロマネスク彫刻における古代美術の影響はつとにしてきされるところであるが、具体的にこの問題を取り上げた特殊研究は稀である。この点においてV. ラサールが1970年に発表した実証的研究[97]は貴重な文献といえよう。彼はJ. アデマール(J. Ade'mar)やR. クロゼ (R. Crozet) による包括的見解[98]をベースとして、多方面にわたる分析から同地における古代遺跡や石棺彫刻の影響を跡付けた。

 サン・ジルに関してラサールは三つの領域から古代美術の影響を指摘する。第一に建築構成、第二に装飾モチーフ、第三に人物レリーフである。このうち、建築構成について彼の主張した古代凱旋門の影響は、すでにスカエナエ・フロンス説によって否定され、今日では受け入れられていない。したがって問題となるのは、装飾モティーフおよび人物レリーフにおける古代彫刻の影響である。以下に、ラサールの指摘する例をいくつか紹介しながら古代とロマネスクとの対応関係を再検討してみたい。(プロヴァンス地方における古代遺跡の分布については、fig. 13 の地図を参照)

 純粋に装飾的なモティーフに関していえば、古代の直接的な影響は多くの要素に明らかである。大玉縁、溝彫りといった比較的単純な形体はファサード装飾のいたるところにみてとれる。また、聖歌隊席基部の円柱台座にみられる刳形装飾の重なりはニームのメゾン・カレ (Maison Carre'e)やディアーナ神殿 (Temple de Dianna)、オランジュの凱旋門といった古代のモデルの影響を示している。[Pls. 58, 59 参照][99] こうした影響はモニュメンタルな古代建築の装飾に限定されるわけではない。アルルのアリスカン墓地 (Aliscamps) に多く残されている初期キリスト教時代の石棺彫刻も重要な源泉の一つであった。たとえば、サン・ジルのクリプト内壁に施された条線は石棺彫刻の装飾レパートリーの一つとして説明できるが、モニュメンタルな古代建築にこのような条線はみられない。 [100] [Pls. 60, 61 参照]

 一般にプロヴァンス地方のロマネスク建築は、古代の装飾文様を直接的に借用しているが、特にその傾向が顕著であるのは幾何学的文様である。たとえば、メゾン・カレを飾る槍穂文を伴った卵形刳形 (Les oves et fers de lance) や真珠文や独楽文の組み合わせ(Les perles et pirouettes) は、サン・ジルのエンタブラチュアにおいてコーニスやアーキトレーヴを分ける水平装飾帯としてそのまま適用されている。[101] [Pls. 62, 10 参照] また、ファサードの水切り (larmier) の部分に施されたギリシア雷文[Pl. 63] はその配置からいって明らかにメゾン・カレを意識したものである。[102]

(後半に続く)

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2000/10/09

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