美しきもの (不相変の冬)      第一部       

日比  工

窓一つ                         

愛する友達へ寄すリーダーアーベント

「日常生活」              

 昨日僕は言葉に就いて少し書いたが、今日も又それに就いてずっと考えて居た。

 恐らく人間の理知的なものは先ず言葉によって生活に繋がらねばならぬのだろう。成程行動は言葉では無いがその意志を起こすのは日常生活という言葉ではあるまいか。

 そんなことを書けば如何にも名の知れた物書きの様だけれども、物を書くということは通常の日常生活と何ら変わらぬのである。

 唯僕の日常生活にはデコレーションの無いだけだ。

 唯僕は日常生活の中に飾られた言葉をこうして紙の上に認めて居る。そしてそれを信じて居るのである。

 冬の夜は永く静かだ。

 友よ、僕の日常を詩人の生活だと考えてくれるだろうか。確かに詩人は革命家でも政治家でもないが、彼等よりも饒舌に多くの人々の記憶に息をして居る。ヒトラーもトロツキーも政治家である前に詩人だった。そういう強引な結論を出す前に僕は、もう一度言葉に就いて考えるべきである。

 [総ての書は読まれたり]此れは詩人マラルメのアイロニーだけれども、それに飾り等付けて見よう。総ての出来事は尽きたと、しかし言葉はどうだろう。

 人間の欲望の限りに出来事は尽きたが、人間の哀しむ限り言葉は尽きまい。哀しみの溢れる限り言葉は人間の中にその哀しみを投影し、免疫としてのかたちを創りながら思い出の内へと閉じ込めるのである。

 出来事の有ってそれを表現する為に言葉は生まれたのではなく、尽きて了った出来事から、再び出来事を探し当てようとする試みだった。此れこそ僕の人生に相応しい使命だ。

 冬の夜は永く静かだ。

 そうだ友よ、此の静かな人生こそ僕には相応しい一刻だ。

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